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作成日時:2022.10.08
更新日時:2022.10.08

ファイナルで再会した2人のレジェンド。日本代表・木暮賢一郎vsイラン代表・シャムサイー、“監督”として初のアジア制覇を遂げるのは果たして──。

PHOTO BY勝又寛晃、AFC

ヴァヒド・シャムサイーと木暮賢一郎は、2000年代から2010年代まで、アジアの2強であるイランと日本をけん引してきたエースストライカーだ。

日本の絶対的なエースだった木暮は、現役時代に2004年、2008年、2012年と3度のワールドカップに出場し、アジア選手権(現アジアカップ)でも日本を2度の優勝に導いた。過去に3人(木暮、逸見勝利ラファエル、吉川智貴)しかいない日本人のアジア年間最優秀フットサル選手賞の受賞者の一人でもある。一国の代表選手として、これだけ輝かしい実績を持つ選手は世界的にも少ないだろう。しかし、シャムサイーはそんな木暮も凌駕する実績を誇る。

文=河合拓

アリ・ダエイに匹敵するイランのレジェンド

シャムサイーは、イラン代表として通算189試合・392得点を記録。1試合あたりほぼ2得点を挙げている計算になり、元ブラジル代表ファルカンの通算258試合出場・401得点に次ぐ、フットサルの歴史上、代表チームにおいて世界で2番目に多いゴール数だ。アジア年間最優秀フットサル選手賞を3度受賞しているほか、1大会31得点をたたき出した2001年のアジア選手権(現アジアカップ)をはじめ、過去8回も得点王に輝いている。

稀代のゴールマシンは、イラン国内でサッカーの元イラン代表アリ・ダエイに匹敵する人気を誇り、今大会でもシャムサイーがピッチに登場すると、イランのファンは選手が登場する時以上に彼を歓迎する。記者会見が終われば、中東の記者たちが記念撮影を求めて列を成すほどの存在だ。

雌雄を競ったシャムサイーと木暮賢一郎

そんなシャムサイーだが、実は昨年まで現役選手でもあった。正確に言えば、2014年から指導者としてのキャリアもスタートさせており、選手兼監督としてイランの強豪ギティ・パサンを率いていた。昨年のワールドカップ終了後、イラン代表監督に就任して現役を引退。その際、周囲はファルカンが持つ個人記録を抜かせようと国際親善試合の開催を提案したのだが、本人は「フットサルの発展のためにならない」と、これを固辞した逸話もある。そして、現在は「就任初日から私たちの目標はW杯で決勝に進出することだ。非常に長く険しい道になるが、必ず達成する」と、新たな目標を掲げている。

選手として圧倒的なプレーを見せ、アジアのレジェンドとなっているシャムサイーだが、「選手時代のほうが多くの喜びや楽しさがあった。その時は、とにかく自分自身と向き合えば良かったからね。今はそうじゃない。監督というのは、その国の指導者全員を代表してきている。そして8500万人の国民の期待を背負うことになる。これは本当に大変な重圧だ」と話しながら、現役時代よりも白くなった頭をなでた。

決勝を前にした前日会見は、現役時代は激しく競い合っていた両雄が肩を並べ、和やかな雰囲気で行われた。日本戦へ向けて、コメントを求められたシャムサイー監督は「私は、コグレと選手として戦った経験が何度もある。現在、私たちは監督となり、以前とは異なる役割を持っているが、再び戦うことができてうれしい。日本というのは、とても強いチームだ。私たちの戦略、戦術に沿った戦いを見せて前進していきたい。しっかりと分析をして、試合中のすべての瞬間を支配できるような最高のイランを披露したい」と、意気込んだ。さらに、「日本は常に試合に向けて素晴らしい準備をしてくる。そして規律をもって戦ってくる。私の願いとしては、とても魅力的なゲームになってほしい」と続けた。

これに対して木暮監督も「シャムサイー監督のことは、選手としても、人としても、よく知っている友人です。代表監督として、再び彼と、彼の率いるイランと対戦できることがうれしい。この20年間、イランは常に私たちのライバルで、多くの決勝を戦ってきました。決勝に向けていい準備をしたい。選手たちも自信を持っているので、イランを倒して、チャンピオンになりたい」と、闘志を燃やした。

アジア最高峰の戦いは、名誉ある一日になる

イランのキャプテン・タイエビも、「日本に対してリスペクトを持っている。世界中が、特別な試合を目撃することになるだろう。僕たち選手は監督の言葉をしっかりと聞き、プランを遂行していきたい。アジア王者の地位を守りたい」と、大会連覇を宣言した。

タイとの準決勝には多くのイランのファンが訪れ、まるでイランのホームゲームのようだった。決勝も同様かそれ以上の雰囲気になると予想されるが、シャムサイー監督は「ここにいるのはプロフェッショナルな選手だけだ。ファンはとても重要だと思っているが、私たちは影響を受けてはいけない。ファンには楽しんでもらいたいし、相手のサポーターが多くてもスタジアムが満員になっていることを見れば、大きな喜びを感じる」と語った。

決勝の展望を問われた木暮監督は「往々にして非常に硬いゲームになりがちだと思いますが、我々はこれまでと変わらずいいディフェンスをして、イランの素晴らしい攻撃に対して、しっかりタイトに守備をしながらも、長い時間ボールを持ってコントロールしていい形で終盤を迎えたい。これは今だけでなく、今まで我々がイランに勝ってきた一つの構図だと思います。そういったものを生かしながらも、我々が持っている最大限のタレントを引き出し、今までで最高のゲームをしたい」と、思い描く試合展開を披露した。

シャムサイー監督も、接戦を予想する。「試合が40分で終わるのか、延長に突入するか、PKまでもつれるかは予言しにくい。確かなことは最初の瞬間から高い集中力を保ち、タフに戦うことだ。私たちにとって重要な試合であり、相手の強さはよく知っている。最高の選手たち、最高の監督がいる。だが、私たちは確信している。自分たちが間違いなくチャンピオンになる。そのための努力を最後の瞬間まで欠かさない」と宣言した。

タイのセサル監督は、準決勝で敗れた後の会見でイランの様々な強みを列挙したうえで、「彼らを倒すためには、完璧な集中力が必要だ」と話していた。これを踏まえて「40分間、集中力を保つためにはなにが重要か?」と問われた木暮監督は、ユーモアを交え「作戦は特にありません。イランは素晴らしい攻撃陣がいますが、私の隣にいるヴァヒッド・シャムサイーがいないことが一番の作戦というか、我々にとっていいこと」と切り返した。

シャムサイー監督も同調し、「私たちは長い間、競い合った。そして現役時代も今も、変わらずに互いをリスペクトし合っている。そして、このスポーツにとってなにより重要なものは、リスペクトやフェアプレーの精神だ。明日は名誉のある一日になるだろう」と、監督として初めて臨むアジア最高峰の戦いに目を光らせた。

両国の象徴的プレーヤーが監督となり、迎える新たなアジア頂上決戦。両指揮官の戦略、采配は、これまで以上に注目される一戦となることは必至だ。

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