更新日時:2023.02.18
【渡邉知晃コラム】ベンチで怒鳴る比嘉監督と、フォローする上村充哉。4年前の屈辱を乗り越えたイケメン主将の振る舞い|プレーオフ準決勝
PHOTO BY勝又寛晃
2月11日、Fリーグ2022-2023プレーオフ準決勝、立川アスレティックFC vsバルドラール浦安が行われ、5-1で立川が勝利した。リーグ戦2位のチームに1勝のアドバンテージが与えられていたことにより、立川がプレーオフ決勝進出を決めた。浦安に先制点を許すも、リーグ戦終盤を14戦負けなしで終えた勢いそのままに強さを見せつけての逆転勝利だった。Fリーグ優勝、プレーオフを戦った経験を持つ元日本代表・渡邉知晃が、この試合を分析する。
■この試合の無料ハイライトはこちら(ABEMAビデオ)
立川のストロングポイントは守備の固さ
フットサルの聖地・駒沢体育館で、Fリーグ2022-2023シーズンのプレーオフ準決勝が行われた。リーグ戦を2位で終えた立川と、3位の浦安が対戦したこの試合。レギュレーションの関係上、決勝に進むには立川は1勝、浦安は2勝が必要だった。
立川に精神的な余裕があったことは間違いない。逆に、浦安としては勝たなければいけないため、やることは明確だった。先制点を奪ったのは浦安だ。左サイド高い位置でのキックインから、加藤竜馬が素早くリスタートすると、長坂拓海が左足でうまく合わせた。浦安待望の先制点だった。
しかし、立川のディフェンスは、このセットプレーから失点シーン以外はパーフェクトに近かった。浦安にはリーグ戦で16ゴールを挙げて得点ランキングで4位となったガリンシャや、日本代表・石田健太郎、長坂、若手の東出脩椰など、高い個人技術を持つ選手を揃えている。
浦安のテンポの早い連動したパス回しやピヴォを使った攻撃を、立川は前からのプレッシングでしっかりと抑えた。試合中、浦安は3-1システムや4-0システムを時間帯によって使い分けながら相手の“マト”を絞らせないように攻撃してきたが、それにもうまく対応していた。
日本代表でもある守護神・黒本ギレルメの存在ももちろん大きかったが、全員が40分間、最後まで集中を切らさずに体を張ってゴールを守り続けた。セットプレーからの失点以外で浦安に得点を奪われなかったことが、立川の守備の固さを物語っている。
比嘉リカルド監督が試合前、「まずはどの試合もディフェンスから。これが勝つための鉄則」と話していたが、それをしっかりとチームとして体現した勝利だった。この試合を、14戦負けなしで迎えたことも、自信を持って試合に臨める要因であったことは間違いない。今の立川は、全員が同じベクトルで戦えている。
それはなぜか?
比嘉監督は、「全日本フットサル選手権で優勝できたことで、選手がこれをやれば優勝できるということをつかんだ。そして僕の信頼も上がった(笑)」と冗談混じりに語っていたが、この優勝した経験こそが今の立川の強さに繋がっている。
タイトルを獲ることで得た自信と、監督と選手の信頼関係はチームスポーツにおいて非常に重要である。そのチーム状態を前提にした上で、彼らの明確な武器となっていたのがディフェンスだった。
チームを救った黒本のPKセーブ
この試合には、いくつかのターニングポイントがあった。
浦安が先制した直後に立川が追いついたこと。浦安の東出脩椰が退場したこと。退場局面の4対3の状況で、数的有利の2分間が終わるギリギリで金澤空がゴールを決めたこと。試合終盤に黒本がPKを止めたこと。
先制された直後に、立川が追いついたことは後述する。
もう一つの、浦安・東出の退場による4対3の局面では、立川は数的優位を生かしてシュートまで持っていくことができていた。何度か決定機もあったが、浦安の守護神・ピレス・イゴールの好セーブに阻まれ、得点を奪えずにいた。
そんななか、数的有利の2分が経過する少し前のタイミングで、中村充に変えて皆本晃を投入し、攻撃のパターンを少し変えた。この変更が功を奏し、左サイドの高い位置でボールを受けた金澤が右足を振り抜くと、ディフェンスとイゴールの股を抜けてゴールに吸い込まれた。
もし浦安がこの2分間を守りきれていれば、1点差をキープできただけではなく、チームとしても勢いに乗ることができただろう。大きな意味を持つ1点だったことは間違いない。
そしてやはり、一番大きかったのは黒本のPKセーブだ。試合終盤で、点差は2点。浦安がパワープレーに出ている時間帯であり、守備側からすると2点差と1点差では大きな違いがある。もともと、今シーズンの立川はパワープレーの守備が安定しており、リーグ戦でもほとんど失点していない。そこに加えて2点差となれば、精神的な余裕もあったはずだ。
終盤にはパワープレー返しで上村が連続ゴールを決めたことで、試合を決定づけることができた。立川は、まさに盤石の強さ、理想的な試合運びで勝利を収めた。
チームに落ち着きを与えたキャプテン・上村充哉
もう一つ、触れておきたいことがある。
プレーオフ準決勝でも、普段のリーグ戦と変わらず、選手と一緒に戦い、時には鼓舞し、時にはというより頻繁に“怒っている”比嘉監督がいた。立川をよく知る者からすれば日常の光景である。特にディフェンス面でのミスの際には、かなり大声をあげて怒鳴っている姿が印象的だ。
そうした場面で、キャプテン・上村充哉のピッチ外での貢献が大きかった。比嘉監督が怒った際や、味方がミスをしてチームの雰囲気が悪くなりかけると、すかさず「大丈夫!いいよいいよ!」「問題ない」と声をかけていた。このシーンは、試合を通して何度も見られた。
立川にはベテランの選手もいるが、若い選手が多いチームであるため、試合中に雰囲気が悪くなると、そのままズルズルと引きずってしまう危険性がある。特に、一発勝負に近いプレーオフの場合、勝ち進んでいくためにはチームの雰囲気は非常に大事な要素なのだ。
これは、上村自身もピッチに立った2018-2019シーズンのプレーオフの経験が大きいだろう。このシーズンをリーグ戦3位で終えた立川(当時、立川・府中)は、プレーオフ準決勝で2位・シュライカー大阪と対戦した。
筆者もこの場に選手として立っていたが、重要な第1戦でチームとして崩れてしまい、失点を重ねた立川・府中は、4-11という大敗を喫してしまった。これにより、第2戦では7点差をひっくり返さなければならない状況に追い込まれ、第2戦は6-2で試合に勝利したものの、決勝進出を逃してしまった。
その時の経験が、今に生きている。
立川としては、2019年以来のプレーオフ進出となった今シーズン。同じ失敗を繰り返さないために、何をすべきなのか、キャプテンとしてやるべきことを上村は理解している。どんな状況になっても、チームが常にいい雰囲気で戦うことができるように、声を出し続けていた。
浦安に先制点を許した立川だったが、その直後に酒井遼太郎のゴールで同点に追いつくことができたのは、チーム全体が失点に対して落ち込むことなく切り替えることができたからだろう。
今シーズンの立川は、リーグ戦においてたくさんの苦しい試合や逆境をはね返し、勝ち点を重ねてきて、今がある。開幕3連敗から始まり、圧勝するような簡単な試合はほとんどなかったが、接戦をものにする強さがある。
その強さの中心にいるのが、大きく成長した上村充哉だ。絶対王者・名古屋オーシャンズに挑む決勝で彼は、どんな戦いを見せてくれるのか。
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