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作成日時:2024.08.23
更新日時:2024.08.23

【インタビュー】全フットボール指導者に伝えたい、育成年代における“フットサル”のあり方(鳥丸太作/戸塚FCジュニア アドバイザー)

PHOTO BY伊藤千梅

小学生年代のフットサル日本一を決める大会「JFA バーモントカップ第34回全日本フットサル選手権大会」で、初出場にして優勝を飾ったのが戸塚FCジュニアだ。Fリーグの監督経験をもつ鳥丸太作氏が関わるチームとして戦前から注目を集めてきたなか、初戦で敗れる“波瀾”スタートから這い上がり、頂点までたどり着いた。

初戦を終えた直後、鳥丸氏は言葉を選びながら今大会のあり方について疑問を口にしていた。

「コートサイズは通常より小さいのに、ゴールのサイズが大人と同じものを使っている状況は厳しい……」

これまで、バーモントカップをめぐる育成年代の“フットサル大会”には、数多くの議論が生まれてきた。「フットサルはサッカーに生きる」と言われて久しいなかでも、今大会で繰り広げられる“フットサル”は、それこそFリーグのそれとは似て非なるものであり、“GKのスローはハーフラインを超えてはいけない”というルールが生まれる以前は、GKのスローを相手GKがキャッチするゴール前への“投げ合い”が横行した時代もあった。

近年も、フィジカルやサイズ感に恵まれる選手を前線に配置し、自陣からゴール前に蹴り込んで得点を狙う形が“常套戦術”として用いられ、DFやGKが対応しきれないままゴールネットが揺らされる現象が多発していた。

ルールに反していない限り、異を唱えても、根底から変えることは簡単ではない。「勝利」という目的を考えれば、ゴールを奪う手段として、ゴールにより近い位置にボールを送り込む行為は間違っていない。だが、フットボールの原理原則を落とし込むべき年代で、フットサルの価値を体感するべき年代で、その戦いは正しいのか──。

これまで、いくつもの“フットサルチーム”が“投げ合い”や“蹴り合い”に屈し、涙を飲んできた。フットサルを学び、仲間や相手との駆け引きのなかで頭を使い、判断・決断して技術を発揮するチームが、なかなか勝ち上がれない現状があった。「そのやり方でいいのか」と訴えたくても、勝てていなければ、その声は虚しく響くだけだった。

その意味で戸塚FCジュニアの優勝は、育成年代に一石を投じる結果を残したと言える。

所属選手の多くは、鳥丸氏が代表を務める「RAD FUTSAL PROJECT」で始まったチームで、幼稚園や小学校低学年の頃からフットサルを学んできた。そして、サッカーのフィールドでもその技術・戦術を発揮できることを証明してきたなかで今回、自分たちが積み重ねてきた“フットボール”で、フットサル日本一をつかみ取ったのだ。

鳥丸氏のインタビューを通して伝えたいのは、改めて「フットサルはサッカーにも生きる」ということよりも、「フットボールの原理原則をきちんと学べば、サッカーでもフットサルでも成果を出せる」ということだ。

「フットサルの価値を伝えていくために、道筋を示したいと思ってやってきた」

優勝直後、鳥丸氏はそう強く口にした。その言葉は、特に育成年代のフットボール指導者に伝えたいメッセージだ。バーモントカップの戦いを通して、育成年代におけるフットサルのあり方を考えるきっかけになればと願う。

取材=伊藤千梅
編集=本田好伸

戸塚FCジュニア優勝インタビュー

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フットサルを通して「思考レベル」を向上させる

──鳥丸さんが育成年代の指導で心がけていることはありますか?

一番は、人としてどうあるべきかという部分です。選手たちにとって小学校卒業後にJリーグの下部組織に行くかそうでないかという進路は重要な選択だと思いますが、僕ら指導者はそこまで重きを置くことではありません。

それよりも、仲間を思いやり、対戦相手をリスペクトし、周りの人に感謝の気持ちをもつこと。そういう選手になれるように子どもたちに関わることが一番大事だと思います。その上で競技レベルを上げていくこと。逆に言えば、そこの部分がしっかりしないと競技レベルは上がっていかないと思っています。

──戸塚FCジュニアの選手たちには、長い選手だと8年近くフットサルを教えています。フットサルをやることでどんな力が身につくのでしょうか?

一つの目標に向かって考え、努力していくことを習慣づけるのに、フットサルはすごく向いていると感じています。プレーする際に考えることが多く、その思考を体現する瞬発力も必要です。それを繰り返して思考レベルを上げていくことで、物事や人のことを深く考えられるようになり、成長につながると僕は思っています。

工夫して勝つ方法を考えることは思考レベルを上げるためにも大事ですし、自分の頭で考えてプレーすることが、彼らのこの先の将来、サッカーやフットサルだけでなく、仕事や私生活においても大きな影響を与えると思います。

──フットサルに長年取り組んできた選手たちがバーモントカップで優勝しました。これまでの取り組みを通して育成年代の指導者に伝えたいことはありますか?

今回の結果を受けて、改めて育成年代からフットサルに取り組む意義を感じています。バーモントカップは、個人戦術やグループ戦術、どのように数的同数から数的優位をつくり、スペースを活用するのかといったことを勉強する場にできると思います。僕らの取り組みがすべて正しいと言うつもりはないですが、僕自身が感じているフットサルの価値を伝えていくためにも、その道筋を示したいと思ってここまでやってきました。

頭を使ってプレーできない選手は、上のカテゴリーでは通用しません。また、自分で考える力は競技以外にも必要ですから、育成年代のうちに身につけておかないのはもったいないと思います。1対1のスキルや対人のデュエルはもちろん大事ですが、ただボールを前線に蹴り込んで事故を狙うようなプレーは、日本のフットボールの未来を考えてもあまり意味がないと感じます。ロングボール戦術は一つの形ですし、自分たちも活用しますが、適度な使い方が大事ではないでしょうか。

──バーモントカップの2週間前に行われた高校生の大会、JFA 全日本U-18フットサル選手権大会では、同じようにサッカーチームとフットサルチームが出場して、フウガドールすみだファルコンズが優勝しました。この世代は徐々にフットサルのレベルが上がってきていると考えられるのでしょうか?

それはあると思います。フウガドールすみだファルコンズは小倉(勇)監督が2連覇を達成しています。連続して優勝するということは、いい指導ができているということ。フットサルの専門的な視点をもった指導者をチームに配置できているからこその結果だと思います。フットサルの技術や戦術を取り入れた上で大会に出場することが、フットボール界全体の競技力向上につながる。これは小学生の大会でも同じことが言えると思います。

──今後、この大会がより子どもたちの成長につながっていくために、どのようなことが必要でしょうか?

「フットサルの大会」として価値を上げていくためにも、ゴールの大きさを変えることは必要だと感じています。コートサイズは通常よりも小さいですが、ゴールが大人と同じ大きさのものを使っている状況では、“ただ蹴り込むだけ”でも点が取れてしまいます。

このような戦術が子どもたちの成長に意味があるのかを考えると疑問はありますし、個人的には、大会のルールなど環境面を整備する必要性を感じています。

素晴らしい会場で、たくさんの応援があるなかでプレーする。そういった大会の場を用意してもらえることを本当にありがたく感じています。だからこそより良い形へと発展していけるように、現場の僕らが声を挙げていかなきゃいけないとも思います。選手の成長を考えて「こうしたほうがいいのでは」と伝えていきたい。現場と運営が手を取り合うことで、さらに良い育成年代の大会をつくっていけるのではないかと考えています。

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