更新日時:2024.02.16
命を賭して戦い散った敗者に伝える言葉を、私は知らない。|しょうこの心情系人物コラム
PHOTO BY高橋学
「いいフットサルを見せることができたかもしれないですけど、結果がすべてなので、フットサルの盛り上げを止めてしまった思いです」
そう絞り出すように話す彼の姿を見ながら「違う、そんなことはない。そんなこと言わないで」と、焦りにも似た気持ちが込み上げてきた。なにかを伝えなくては。でも、なにを?
3月5日、しながわシティの悲願であるF1昇格の道が断たれたFリーグ2021-2022 ディビジョン1・2入替戦第2戦の試合後会見で、しながわのキャプテン・白方秀和の言葉を聞きながら、私の頭のなかでは様々な言葉が浮かんでは消え、フル回転を続けていた。
人生を懸けている人を前にして
白方はFリーグ最速で100試合出場を達成し、負傷で欠場することになるまでは、エスポラーダ北海道の水上玄太と並び欠場の少ない「鉄人」だった。バサジィ大分や名古屋オーシャンズで活躍した白方だが、私がじっくり話すようになったのは、2020年にF2リーグのトルエーラ柏(現・しながわシティ)に移籍してからだ。
白方はとてもシャイで、言葉を選んで話す。そんな彼を岡山孝介監督は「背中でみんなを引っ張っていくタイプ」と評し、白方のハットトリックがF2優勝を引き寄せたことについても「日ごろの姿勢から模範になってくれているので、得点を取らなかったとしても彼の貢献度は計り知れない」と信頼を寄せていた。それを本人に伝えると、「口下手なので……」と笑って謙遜していたが、ハットトリックの1ゴール、1ゴールや、入替戦に臨む気持ちなど、とてもていねいに答えてくれた。入替戦第1戦の同点ゴールは、優勝を決めた試合の3点目のボレーによく似ていた。やはり白方は、ほしいときに点を取り、チームを助ける精神的な支柱なのだ。
第1戦で勝利したしながわは、アドバンテージを持っていた。しかし、引き分けでも昇格が決まる第2戦でもなお、積極的にゴールを狙う。勝って昇格を決めたいという思いが見えるようだった。第2戦で逆転されたあとも最後の1秒まで走り続ける白方を見ながら、2試合を残してF2リーグを優勝したあとに話していた「入替戦に向けてもっと完成度を上げたいと思っている。そういった自信をつかむ意味でも、残りのリーグ戦を消化試合にせず結果も内容も求めていきたい」という言葉を思い出していた。きっと、妥協を許さずたゆまぬ努力を続ける背中で、ここまでチームをけん引してきたはずだ。
試合終了のブザーが鳴り、敗戦が決まった瞬間、白方はピッチに倒れ込んだ。両手で顔を覆い、しばらくは立ち上がるどころか動くことすらできないようだった。会見中も時にはしゃくりあげ、言葉が発せないほどの落胆ぶりを見せた白方が口にしたのが「フットサルの盛り上げを止めてしまった」という悔恨の言葉だった。
私は質疑応答の最後に、「ピッチに倒れ込んだ白方選手をボラ選手が助け起こしたが、どのような言葉をかわしたか」という質問をした。その時もまだ、「なにかを伝えなくては」と頭はフル回転を続けていた。
白方の回答を聞いたあと、私は気持ちを整理できていないまま「個人的な意見を言わせてください」と前置きをして話を始めた。
「先ほど『フットサルの盛り上げを止めてしまった』とコメントをされましたが、本当にこの2日間素晴らしい戦いを見せてもらい、まったくそんなことはないと思うので……」
ここまで続けたあと、言葉に詰まった。普段の私なら「胸を張ってください」や「前を向いていいと思います」などと言うのだろうか。または「中継やSNSでも感動したという声が多かったですよ」とでも伝えているのだろうか。でも、どの言葉もとても空虚に思えた。
そのときの白方が、胸を張って前を向く気持ちになれていなかったのは、誰の目から見ても明白だった。でも、会見場にいた記者やカメラマンが誰ひとりとして「盛り上げを止めた」なんて思っていないことも明白だった。では、なにを言えば……。それで、「それだけは心にとどめておいていただければと思います」と結んだ。
その言葉がどのように届いたのか、個人的な思いを伝えることが正しかったのか、今でも分からないけれど。
「人生を懸ける」とはこういうことだ。本当に人生を懸けている人を前にしたら、たった一言、声をかけるだけでもこんなに悩むのだ。
私はいつも、このコラムを「楽しみだ」や「期待している」といった前向きなニュアンスで締めている。だけど今は、12日から始まる全日本フットサル選手権でしながわを見るのがとても怖い。しながわは昨年、トルエーラ柏として出場した同大会でフウガドールすみだを下して優勝を果たした。事実上の連覇を狙う今大会の初戦で、またもすみだと対戦する。こんなにドラマティックな展開なのに、だ。
スポーツは感動や希望を与えてくれるけど、時にとても残酷だ。勝者がいれば敗者がいる。長野の闘志や諦めない姿勢は本当に素晴らしく、勝利にふさわしい戦いぶりを見せてくれた。でも、だからといって、しながわの闘志が劣っていたとは到底思えない。両者が本気でぶつかり合ったからこそ、多くの人の胸を打つ試合となったのだ。
私は人生を懸けて競技に臨んだことがないので、あのような激戦を繰り広げ、あと一歩のところで昇格に届かなかったそのあとに、どうやって気持ちを切り替えるのか、それとも切り替えられなくても目の前に試合があれば集中できるものなのか、見当もつかない。
だから、怖いけれど知りたい。
日々のトレーニングにも試合にも妥協せず、人生を懸けてフットサルに取り組んできた白方が、大きな挫折を味わってもなおピッチに立ち、背中で語る言葉を。
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