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作成日時:2022.10.08
更新日時:2022.10.08

勝手に見守って、勝手に感動するために私は、彼を追って旅をする|しょうこの心情系人物コラム

PHOTO BY勝又寛晃、FIFA:FIFA via Getty Images

ずっと彼のプレーに魅了されてきた。豊富な運動量、チームを助ける献身的なプレー、ゴールが決まったときの破顔。

「一家に一台、吉川智貴」。

私なりの最大限の賞賛である。彼のような選手を擁するチームはきっと多くのことを学び、助けられ、チーム力が底上げされる。どのチームにも、彼のような選手がいてほしい。

文=しょうこ

ロマンティックで愛情深い一面も

吉川と話すようになったきっかけは、2014年にさかのぼる。当時、Fリーグのサプライヤーだったメーカーに直談判をして、選手が出演するプロモーションムービーの製作にこぎつけた。企画の際に「できれば複数のチームの選手を出したいし、いろいろなポジションに触れたい」と熱弁し、デウソン神戸の鈴村拓也と冨金原徹、バルドラール浦安の小宮山友祐、ペスカドーラ町田の滝田学、シュライカー大阪の永井義文、そして名古屋オーシャンズの吉川智貴をキャスティングした(※所属クラブは当時のもの)。

当時、社員数2人の小さな小さな会社を経営していたので、企画から調整、現場の立ち合い、軽食の買い出しから画角のチェック、ホテルや会食の手配に至るまで、ありとあらゆることを行わなければならず、必然的に出演選手と話す機会が多くなった。当然、お互いに今よりも若く、吉川はピッチではもっとやんちゃだったが、打ち合わせや撮影では礼儀正しい好青年だった。そのときのイメージは、今日に至るまでずっと変わらないかもしれない。

いや、一度だけイメージが変わったことがあった。同年の7月20日、2014/2015シーズンの第5節での出来事だ。この日はオーシャンアリーナで、名古屋オーシャンズとバルドラール浦安の試合があった。浦安は条件付きではあるものの、この試合で勝利することで名古屋を抑え首位に返り咲く大事な一戦だった(と、当時の私のツイートが言っている)。

森岡薫が先制し、星翔太が同点弾を決め、森岡薫が取り返す。前半を2-1と名古屋リードで終え、後半は浦安がオウンゴールを献上するも、直後に深津孝祐のゴールで浦安が1点差に迫った。ペドロ・コスタのゴールでリードを広げた名古屋に対し、浦安はパワープレーから稲葉洸太郎がゴール。両チーム5ファウルになり激しい攻防を繰り広げた一戦は、4-3で名古屋に軍配が上がった。激戦を終えたあと、名古屋のアリーナMCから「このあと大事な話があるんですよね?」と振られた吉川は、ピッチ上に彼女を呼び、公開プロポーズをしたのだ。星と荒牧太郎は、ベンチに残りタオルを回して祝福していた。とても素敵な光景は今でも印象に残っているが、試合中の闘志あふれる姿とピッチを離れたときの落ち着いた雰囲気に加え、こんなにロマンティックで愛情深い一面もあるのか、と感動したのを覚えている。

その翌年には、スペインのマグナ・グルペアに期限付き移籍。2017年にはさらなる進化を遂げ、名古屋に帰ってきた。そして、今ではパパである。私は他人様の人生を勝手に見守って勝手に感動できるインスタントな性格なので、とても感慨深い。


名古屋のホームページでは当時の様子を今でも知ることができる

日本フットサルにとって必要な選手

その吉川も出場した昨年のワールドカップ。9年ぶりの出場で史上初のベスト8を目指す日本は、グループステージを突破しラウンド16でブラジル代表と対戦した。この試合、思わぬアクシデントにより吉川は出場することができず、チームは星翔太のゴールで先制点を奪うなど健闘したが2-4で敗戦し、大会を去ることになった。

不完全燃焼で終えたワールドカップの後に、吉川に話を聞いた。個人的にも高いレベルでプレーができている感覚があったと聞き、やはりブラジル戦での不出場が悔やまれたが、吉川はすでに前を向いていた。「まずはその感覚を落とさずにプレーすることが大事」であり「今のリズムでプレーし続けることがチームのためになり、今後の日本フットサルの成長にもつながってくる」と。

そして、今大会でもやはり、吉川がチームを助ける。

昨日、今大会最後のトレーニングを取材し、内村俊太に話を聞いた。初戦のサウジアラビア戦を落としたあと、2014年にイランを打ち破って優勝した経験を持つ内村と吉川で「当時と雰囲気が違う」「ちょっとやばいよね」と話をしたというのだ。そして、内村と吉川が中心となり全選手を集め、選手のみでミーティングを行った。

短期決戦での心の持ちようやピッチ上の選手に対するポジティブな声掛けなど、共通の認識を持てるように働きかけたのだ。第2戦の韓国戦は、6-0で完封勝利。内村は「勝って自然といい雰囲気になったかもしれないし、”たられば”ではあるけど、やっぱり話せたことは大きかった」という。まさに2人の経験がチームをまとめ上げたのだ。

代表に選ばれるかどうか、選手を続けられるかどうかは、選手自身がコントロールできることではない。それでも、W杯のあとに伝えたいことがあった。

「日本のフットサルにとって必要な選手だと思っています。3年後のW杯も目指しますか?」

吉川はこう答えた。「目指したいという気持ちがちょっとずつ沸いてきています。やっぱりすごく悔しい思いもしたので……。やれることをやって、あと3年がんばりたいな、と思っています」

 

この取材から1年余り。吉川は今でもやはり、日本フットサルに必要な存在だ。日本がワールドカップでベスト8以上の成績を残すその日まで、吉川のプレーを見たい。その姿を勝手に見守って、勝手に感動するために、私は旅を続けているのかもしれない。その道の途中にある今日の決勝で、彼はどんなプレーを見せてくれるだろう。8年ぶりにアジア王座に輝くまで、あとひとつ。

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