6歳から友達、31歳でライバル。宿本諒太と栗本博生、フットボールの神様が見守った最後の対決|俺たちの全日本
PHOTO BY高橋学
運命に導かれた、最後の対決
栗本「神奈川県リーグからクラブをFリーグに昇格させて、F1まで登り詰めて、そこで自分もちゃんと中心選手としてプレーして……。すごいことを成し遂げましたよね、彼は。なかなかできることではないと思います」
宿本が栗本をリスペクトしていたのと同じように、栗本もまた、旧友の成し遂げた功績を心から称えていた。そんな栗本には、宿本の引退に際して一つだけ心残りがあった。
栗本「リーグ戦最後の直接対決は僕が累積警告の出場停止で出られなかったんですよね。彼が引退するのは事前に知っていたので、もう一度公式戦で対戦したかったなという思いはありました」
2人の物語の最終章は、少し出来過ぎなほどの巡り合わせが待ち受けていた。
宿本の最後の大会となった、第28回全日本フットサル選手権大会。負ければ終わりのトーナメントで横浜とすみだは順調に勝ち進み、駒沢で行われる準々決勝に駒を進めた。互いにあと一つずつ勝てば、準決勝での対決が実現する。
しかし、ベスト8で対戦する相手は、横浜が立川アスレティックFC、すみだが浦安と、リーグ戦2位・3位という強敵だ。決して簡単な相手ではなかった。
さらに悪いことに、横浜には怪我人が多く出ていた。今シーズン加入し、すっかりチームの柱となっていたロドリゲス・リッツィ・ガブリエルも、シーズン中に骨折した鼻の手術を行うため選手権前に帰国。加えてこの大一番に、チームの後ろを締める役割を担う高橋響が出場停止と、スクランブル状態で試合に臨むことになったのだ。
しかし、そんな限られた人数のなかでも横浜が素晴らしいゲームを見せる。立川に先制を許すも、第2ピリオド2分に宿本が自らこぼれ球を押し込み同点。その後すぐに、今度は宿本のアシストから芝野が続き逆転。終盤に2-2の同点に追い付かれるも、延長・PKの末に劇的な勝利。宿本が1ゴール1アシストの大車輪の活躍で、一足先に翌日の準決勝に駒を進めたのだ。
これで奮い立ったのが栗本だ。目の前の浦安戦に勝利すれば、横浜との対戦が実現する。
栗本「僕らの一つ前の試合で横浜が先に準決勝進出を決めてくれて、この時点で『これはもう、勝つしかない』と。もちろん、そんな個人的な感情とかは抜きに、今シーズンのチームで1試合でも多く戦って、最後にタイトルを獲りたい。それが一番なんですけど、それと同時に、個人的にも『必ず勝って明日、諒太と対戦するんだ』という思いもあって。より一層、気合いが入りました」
キャプテン・栗本に率いられたすみだは、元横浜の中田秀人が4ゴールの大爆発。栗本も自ら1ゴールを決め、見事、横浜が待つ準決勝へと駒を進めた。
迎えた翌18日の準決勝。小学6年生の時に共に全国大会を戦った思い出の駒沢のピッチで、2人の最後の戦いが始まった。試合は緊張感あふれるロースコアゲームとなる。互いに決定機を作るも幾度となくポストに弾かれ、矢澤大夢、岸将太の両ゴレイロの活躍もあり均衡が破れない。
スコアレスのまま延長に入ったゲームを動かしたのは中田だった。カウンターから名手・矢澤の脇を抜く技ありゴールで先制する。その後、横浜も堤優太らを中心に反撃を試みるもゴールが遠い。延長第2ピリオド残り3秒での笠篤史のシュートも左ポストに阻まれ、タイムアップ。1-0ですみだが決勝進出を決めた。そしてこの瞬間、横浜と共に歩んだ宿本の現役生活が幕を閉じた。
試合後、駒沢のピッチ中央で最後の抱擁を交わした2人。ミックスゾーンに現れるタイミングも偶然重なったので、一緒に話を聞けることになった。時間にして20分近くあっただろうか。冒頭の出会いのエピソードやまんほーる時代の話などをひとしきり聞いて、お礼を伝えた。
宿本「負けたのは悔しいけど、もうこうなったらさぁ、明日勝って優勝してもらうしかないよ」
栗本「それはもう、そうでしょ。優勝するよ」
最後にこんなやり取りを見てから、2人を見送った。
翌日の決勝戦。すみだは湘南ベルマーレを相手に延長の末2対1で勝利。14年ぶりの大会制覇を達成した。栗本は高校時代にあこがれたクラブの主将として、高らかにトロフィーを掲げた。
スタンドには、親友の戴冠を家族で見守る宿本の姿があった。その座席の前には、エンジ色と白の、2枚のユニフォームが飾られていた。
「こういう時でもないと、使う場面がないので(笑)」
宿本はそう言って、少し照れくさそうに笑った。
近所の公園で始まった2人の少年のフットボール人生は、思い出の場所・駒沢で一つの区切りを迎えた。現役最後の試合で、最初のチームメイトと、共に夢見た舞台で戦って引退できる選手が果たして、世界中にどれだけいるだろうか。
その運命的な物語を見届けた今、フットボールの神様の存在を、やっぱり少しだけ信じてみたくなるのだった。
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