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2021.10.03

フットサルの“質”が変わる。W杯で導入されたビデオサポートをFIFA審判インストラクターが解説!

PHOTO BYFIFA/Getty Images、本田好伸

1989年に始まり、今大会で9回目を迎えたFIFAフットサルワールドカップ。ブラジルとスペインが世界を席巻し続けた時代は移り変わり、2016年に初制覇したアルゼンチンを先頭に、新時代へと突入している。

純粋な選手の質、競技の質だけではなく、テクノロジーの波がフットサルに訪れていることも新しいポイントだ。W杯を主催する国際サッカー連盟(FIFA)は、今大会からビデオサポート(VS)システムを初めて導入した。

今の得点はゴールラインを越えていたのか、退場になるファウルはなかったのか、PKではないのか、警告を出す選手を間違えていないか──。

サッカーに導入されているビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)と同じように、主に4つの場面で、映像を見直しながら判定の整合性をチェックしたのち、あらためて判定をくだす。VARと大きく異なる点は、判定に異を唱えるチームが「チャレンジ」すること。バレーボールやテニスなどで運用されるチャレンジシステムと同じように回数の制限もあるため、“今使うべきか、やめておくべきか”など、「VSの使い方」は戦略性も内包していると言える。

実際、今大会の準決勝では、カザフスタンに先制を許したポルトガルがVSにチャレンジし、得点が取り消しになった事例もあった。ゴールにつながる直前のプレーで、ボールがタッチラインを割っていたのだ。

◆ポルトガルvsカザフスタン(引用:J SPORTSハイライト/0:10のシーン)

これまでならばゴールが認められ、試合が進んでいた。つまり、最終的に2-2のまま決着がつかず、PK戦の末にポルトガルが決勝進出を決めた試合が、違う結果になっていたかもしれないのだ。判定の質が上がれば、試合の質が高まることは間違いない。つまり、VSの導入によってフットサルの質が変わっていくのではないだろうか。

ただし、各国の審判にとってはまだ、VSは未知の領域。そのため、審判に対してチャレンジがあった際の対応や、VSを用いた判定の指導が必要になり、その役割を担うのが「審判インストラクター」だ。長らく日本サッカー協会審判委員長を務め、日本フットサルの“審判の第一人者”と言われる松崎康弘氏は、日本人として唯一そのポジションでW杯に参加し、審判にVSの運用方法を指導している。

VSは、今大会でどのように使用されているのか。日本への導入はあるのか。本当にフットサルの質を変えるのか。W杯開催地・リトアニアとオンラインでつないで、松崎氏に話を聞いた。

インタビュー=北健一郎
構成=本田好伸

松崎康弘氏は2012シーズンから2015シーズンまでFリーグ最高執行責任者を務めた人物でもある


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VSとVARはどう違うの?

──松崎さんは、今回のW杯にはどのようなポジションで参加されているのでしょうか?

私は、国際サッカー連盟(FIFA)の審判委員会に所属する「フットサルエキスパートパネル」(専門家チーム/有識者会議)のメンバーなのですが、今回は「レフェリーアセッサー」という立場で関わっています。

──フットサルエキスパートパネルとはどのような役職ですか?

2018年に、フットサル競技規則が6年間も変更がないこともあり、見直しを図るタイミングで組織されました。欧州から2人、北中米から1人、南米から1人、アジアから1人の5人で構成されていて、ルールだけではなく、規則の解釈を含めて検討してきました。その作業を経て、2021年に競技規則を大きく変更しました。加えて、インストラクターですね。今大会で笛を吹く審判を指導し、どのようなレフェリングをするか準備することです。審判インストラクターとしては、2004年に台湾で開かれたフットサルW杯から携わっています。

──では、今大会で採用されたビデオサポート(VS)システムの運用方法も指導されたんですね。

そうですね。VSは、去年の秋頃からスペインリーグで試験的に導入されてきました。そのフィードバックを基に、今大会に向けて競技規則を整え、正式に導入開始する予定だったのですが、コロナ禍の影響もあり、まだ試験的な導入段階にあります。私たちは今大会を通して審判に運用方法を指導しています。

──サッカーでも導入されているビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)とVSはどう違うのでしょうか?

まず「VARとVSは同じ」と捉えてください。機械を使って判定をより確かなものにする、という意味です。機械を使いながらもレフェリーが最終判断する点や、レビューする対象もVARとほぼ同じです。大きく異なる点としては、サッカーの場合は、VARというレフェリーがいて、VARがPKなのか、ゴールに入ったかなどをチェックし、必要に応じてレフェリーに伝えるというところ。VSの場合は「チャレンジ」なので、チームが確認を求めて、レフェリーがピッチ横のモニターでチェックします。VARがいて、別の部屋でチェックするわけではありません。「チャレンジ」という部分は、バレーボールなどの制度と似ています。

【ビデオサポートの概要】
◉チームチャレンジ
<チャレンジ権を使える人>
原則として監督。監督がいない場合はベンチに入っている指導者
<チャレンジできる回数>
第1ピリオド、第2ピリオドで1回ずつ。第1ピリオド・第2ピリオドで1回、PK戦で1回
※成功した場合はチャレンジ権が残る
<チャレンジの対象となるシーン>
1)得点:得点シーンの攻撃側の反則、ボールが外に出ていたか、ゴールに入っていたか
2)一発退場:決定的な得点機会阻止のシーンで攻撃側の反則か、ボールが外に出ていたか
3)PK:PKとなるファウルか、攻撃側の反則があったか、外に出ていたか、エリアの中か
4)人間違いの警告提示:警告を提示した選手は合っているか
<プレーの再開>
アウトオブプレーの場合はそのプレーから、インプレーはドロップボール

◉レフェリーチャレンジ
<チャレンジの対象となるシーン>
1)タイムキーパーの時計の故障
2)タイムキーパーが誤って開始・停止
3)ボールがゴールに入ったか
4)ブザーが鳴る前のゴールか

──レビュー対象となる事象は、たしかにサッカーと同様ですね。

加えて、決定的な得点機会の阻止(DOGSO/ドグソ)の場合は、“カードが残る”ケースもあります。たとえば左側のPKエリアで、ファウルらしき行為があったもののそのままプレーが流れ、今度は右側へ攻め込んだチームがDOGSOを受けたとします。反則した選手が一発退場となるシーンです。そこで、一つ前、左側のプレーに関してPKかどうかのVSが行われ、レフェリーの判断が「PK」だった場合、右側で起きた事象はなかったことになるため、退場は取り消されますよね。ただし、DOGSOを起こした行為が著しく悪質であった場合、カードは消えません。一方で、テクニカルなファウルであれば、そのカードは取り消しとなります。

──どのタイミングでVSがチャレンジされ、審判がどのタイミングで止めるかという難しさもありそうですね。

根本的にはVARと同じです。たとえばPKかどうかの判断があり、レフェリーがPKではないと判断してプレーを続けさせた場合、VARがPKだと思ったらレフェリーに伝え、ボールが攻撃ではないところ、止めてもいいだろうというところでレフェリーがプレーを止め、ビデオチェックしますよね。それでPKではないと判断した場合、ドロップボールで始めます。

チャレンジ成功は準決勝までの55回中わずか3回

──今大会中のVSの運用状況はいかがでしょうか?

VSが使用されたのは準決勝までの50試合で57回です。うち2回はレフェリーが自ら、試合時間と、ゴールインかどうかを確認した「レフェリーチャレンジ」で、残り55回が「チームチャレンジ」です。(判定がくつがえる)オーバーターンは3回でした。

──オーバーターンは3回。数字だけ聞くとチャレンジ成功率は低いように感じます。

オーバーターンの1つは、アメリカvsイランの一発退場となるべきシーン。相手の得点機会に際して、GKがエリアを飛び出してキャッチしていましたが、そのままプレーが流れ、ボールが反対側に行った場面でチャレンジが行われました。映像を見て、明らかにエリアの外でキャッチしていたためGKが一発退場となりました。もう1つは、リトアニアvsコスタリカで主審が警告を出す相手を誤ってしまったため、判定が変わりました。チャレンジ成功率が低いという点は、監督がまだVSに慣れていないように感じます。審判たちの間でも試合を振り返っているなかで、「このシーンはチャレンジしたほうがよかったかもしれない」というケースもありました。それに、“ダメ元”のチャレンジも多いように感じますね。特にグループステージで各国2試合くらい戦うまでは慣れていない印象でした。ですから3試合目以降は、VS自体が減っています。

──どこまでさかのぼってチャレンジできるのでしょうか?

そこはまさに議論になるところです。たとえばサッカーでは、タッチラインで外に出たかどうかは映像がないのでVARでチェックできないですが、フットサルはピッチが小さいため、20台のカメラでカバーできます。タッチラインから出た“らしい”状況で、そのまま攻撃が続き、得点に結びついたのであれば、チャレンジができます。オーバーターンの3つ目の例ですが、準決勝のカザフスタンの先制点は、ポルトガルのチャレンジによって取り消しになりました。どこまでさかのぼるかという点では、基本的にはサッカーのAPP(アタッキング・ポゼッション・フェーズ=攻撃の起点)の考え方と同じです。サッカーでは攻撃の起点が始まったところからポゼッションがあり、そこからVARを見ます。とはいえ、フットサルは急に攻守が入れ替わることも多いため、どこまでさかのぼるかはまだ議論の余地があります。

──少しうがった見方かもしれないですが、チャレンジの数が減ったのは判定がくつがえらないから、また、判定がくつがえらないのは、審判が「判定を間違えた」ことを肯定したくない、ということもありますか?

それはあるかもしれません。間違いを指摘される審判の心情は理解できます。ビデオを見たとしても間違えてしまうケースもありえます。私たちは、主審や副審の判定を評価する立場にありますから、どれだけ判定の精度を高められるかを追求しないといけません。基本的に、ゴールに入ったか入っていないか、ボールが出たか出ていないか、ペナルティエリアの中か外かなど、客観的に判断できる事象は問題ないですが、判定の多くは主観の判断になりますからね。もっとも、VSのチャレンジ回数が減り、なおかつ判定がくつがえらないことが多い一番の理由は、レフェリングの質にあると思います。フットサルはプレースピードが速い競技ですが、ピッチの広さはサッカーの9分1ほどです。そのサイズを2人のレフェリーが監視できているため、そもそもの判定精度は高くなっているはずです。

──今大会は、ゴール内の手前ポスト内側にある斜めの棒に当たって外に跳ね返ってくる、という珍しいケースが何度かありました。SNSなどでも、静止画とともに「明らかにゴールだろう」という指摘も見られました。

あの“三角の支柱”がなければそのまま入っていた“であろう”ケースですね。日本では使われていないタイプのゴールですが、私たちも、そこに当たって入ったケース、入らなかったケースを複数回、確認しました。入念にチェックしておく必要があったと思います。現在は応急的ですが、三角の部分をアクリル板で補強したので、当たって戻ってくることはありません。

──ベトナムvsパナマでは、GKのロングボールからゴールに向かったボールが幻の得点となりました。

たしかに、入っていたとするなら幻ですよね。三角の支柱さえなければ……ということだと思います。ただし、VSでくつがえらなかった判定は正しいものでした。横からの静止画で見てもボールがわずかに隠れているため、完全に超えないとゴールにはなりません。判定は正しかったけど、ゴールの作りに問題があったという難しい現象でしたね。

──サッカーのVARと同じように、VSにもメリットとデメリットがありそうですね。たとえば、エリア内で行われていた選手の“マリーシア”はバレてしまいます。一方で、チャレンジする側にはプラスとなります。

監督としては、選手のリアクションを見ながら、その気持ちを汲んでチャレンジすることもありそうですね。

──それに「戦略的チャレンジ」もあるのではないでしょうか。日本vsスペインで、ブルーノ・ガルシア監督は、ソラーノ選手が肘打ちしたのではないかとチャレンジしました。スペインリーグで導入されていたことからも“使い勝手”を知っていた可能性はあるのかなと。それでソラーノ選手が退場となれば日本にとっては大きいですし、そうならないとしても、相手にプレッシャーをかけることもできるのではないかと感じました。

VSをうまく活用するチーム、監督はすでにいますね。タイムアウトを使ってしまったあとに、選手を集める目的で戦略的に使うこともあります。判定は100%の間違いだと認められないとつくがえらないですが、展開を見ながらVSを使う考え方はおもしろいと思います。VSはチームが関与し“チャレンジできる”という点は、まさにVARとの大きな違いですね。

日本でもフットサルの向上のために導入すべき

──今後、VSは日本にも導入されるのでしょうか?

私としては、導入したほうがいいと思っています。

──とはいえ、FIFAでは20台近いカメラを入れていますし、機材などのコストも大きいですよね。やるからには判定の精度をあげないといけないでしょうし……。

たしかに精度が高いに越したことはないですが、たとえカメラ1台であっても、チャレンジできたほうがいいと思います。絶対に違うだろうという場面は、少なからずありますよね。審判も、何回かビデオを見ることで、判定の間違いに気がつくこともあります。それに、先ほどお話ししたように、戦略的にも“タイムアウトを2回使える”感覚となることは、試合の内容を向上させる要因になると思います。FIFAとしては、試合に機械を入れることに前向きですし、サッカーにおいても、お金がかからないで導入できるライトVARなどを検討しています。

──審判の死角で行われた悪質な肘打ちなどがあった場合、試合後に見直したり、クラブからの抗議が届いたりして、試合を終えてから処分されることがあります。ただ、VSがあれば行為が明確なら試合中に判断できます。

それはいいと思います。課題としては、ベンチで何かが起きた場合や、カメラに映っていないサイドで何かが起きてしまうと、映像がないということは考えられます。見ていないから判断しようがない、となりますからね。

──Fリーグでは、選手が鼻血を出していても、見ていないためにノーファウルになったこともありました(苦笑)。とはいえ、カメラ1台からでも運用できるのであらば、導入を検討していくべきですよね。

私はそう思います。レフェリーへの教育は我々が担当しますから。フットサルにおいては、VARよりもVSを推奨していくほうがいいですね。今大会の実績を踏まえた議論が深まり、VSが正式に導入され、審判の判定の質の向上と、引いてはフットサルのゲームクオリティの向上につながっていくことを願っています。

■フットサル競技規則2021/22の解説映像(引用:日本サッカー協会)

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