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2021.10.23

“Fリーグ世代”の最高傑作・西谷良介。世界を驚嘆させたW杯で流した、涙の成分。|ブルーノ・ジャパンの真実

PHOTO BYFIFA/Getty Images、本田好伸

仲間からもファン・サポーターからも「パッシャン」の愛称で親しまれ、日本の心臓として、35歳で初めて世界最高峰の舞台に立った。

西谷良介は、紛れもなくブルーノ・ジャパンの中心にいた。

派手なプレーをするわけでもなく、身体能力が高いわけでもない。しかし彼には、世界と戦うために磨き上げた、誰にも負けない武器がある。

「基礎技術」の高さだ。

リトアニアで西谷のプレーを観たスペイン人が、「素晴らしいスルドだ」ともらしたという。「スルド」とはスペイン語で「左利き」を意味する。西谷は右利きだ。

西谷がいかに左右の足を遜色なく使えていたかを示すエピソードである。

ブラジル戦でパワープレーから左足で決めたゴールは、多くの人に感動を与えた。

そして、敗戦後に流した涙。

西谷はなにを思い、なにを考え、戦ったのか。日本代表のかつての盟友として、話を聞いた。

※インタビューは10月7日に実施した

インタビュー・文=渡邉知晃

強国に感じたミスへの許容範囲

──パッシャン、W杯お疲れさま!今日はいつも接しているように話を聞かせてください。

わかったよ(笑)。

──ありがとう(笑)。いきなり本題だけど、大会を終えてどんな感想?

帰国後も中継を見ているけど、「すごい舞台に立っていたんだな」って客観的に思う。大会中も特別な場所だと感じていたけど、普段のリーグ戦と同じように目の前の試合に向き合っていたからね。世界が注目しているすごい舞台なんだと、帰国して初めて感じたかな。

──大会中に中継映像を見る機会はないからだね。決勝もすごかった。

うん、大会中は世間の反応に鈍感になっているし、試合は普段と変わらない準備をして臨もうと思っていたから。でもこうして見ていると、注目度がすごいよ。そこに自分がいたことを誇りに思うし、幸せな時間だったなと、終わってみて強く感じているかな。

──帰国後は隔離期間もあるなかで冷静に振り返る時間があると思うけど、あらためて結果に対してどう感じている?満足できたのか、もう少しやれたと感じているのか。

正直、満足はしていない。もう少しやりたかった。だけど、ブルーノ監督と5年間で積み上げてきたものは自分たちの武器になっていたと思うし、世界を相手に脅威を与えた時間も多かった。だからここまでのプロセスには、満足というか、やり切ったという感覚はあるかな。

──やり切ったけど、もっと上に行けたのではないか、と。

そうだね。負けた試合も、試合を通して「いける」という感覚はあった。強豪国を相手にリードできていたし、勝つための道筋が見えていたからね。

──ブラジル戦の後半も点差を離されずに食らいつけていた。

そうそう、そういう光が見えたからこそ、もっとやれたんじゃないかという思いもある。でも一方で、ベスト8までの距離は、近いようで遠いんだと感じた。

──今大会を見ていて、ベスト8から試合のレベルが一気に上がると感じた。どう?

うん、ベスト8からは総合力も問われていると思う。一言で表すのは難しいけど、上に行っているチーム、行き慣れているチームと、そうではないチームの間になにかあるだろうなと。ベスト8を知っているチームと、知らないチームとの差。そこまで勝ち進んで行けるチームとしての差。そこは、試合の流れを読む力にも影響していると思う。

──スペインとブラジルという世界ランキング1位、2位と、本気の舞台で対戦して、善戦できた。この経験は大きいよね?

そうだね。親善試合では味わえない、この舞台だからこそ強豪国の本気度は増していたし、脅威には感じたかな。それでも、大会直前の親善試合ではいい手応えもあったからね。こういうことは相手が嫌がっているとか、自分たちが主導権を握れている部分もあった。親善試合でその感覚を得られたからこそ「できる」という自信を確立できたかな。

──特にディフェンスの部分?

うん。W杯を通して、日本のディフェンス強度への評価はすごく高かったと思う。そこを武器に戦えたことと、なによりその武器を見つけられたことは大きな意味があると思う。世界と戦うために、ディフェンス強度はマストなんだという感触をつかんだ。今後につなげていけるかなと。一方で、それだけじゃ勝てない。

──守備の主導権だけでは。

どう奪い取って、そこからどうゴールを決めるか。そこはもう1つ、2つ……いや、3つ、4つ上げていかないと、ベスト8以上に入るには厳しいと思った。ボールを保持する、前進する、ゴールに向かう、相手に脅威を与えるプレーを磨かないといけない。W杯は、簡単にやらせてもらえない。親善試合とは違って、相手もディフェンスで誤魔化してこない。トモも感じたと思うけど、そういうことを知れたのは大きな収穫だったと思う。

──今までは、守備でも攻撃でも主導権を握れないことが多かった。そこから守備を磨いて、世界トップ2に通用することがわかった。彼らに勝つためには、攻撃面が必要?

そうだね。ディフェンスはどうしてもリアクションになる。自分たちからアクションを起こして奪うこともあるけど、自分たちからアクションを起こす前に、まずはボールを保持しないといけない。それをするための勇気や自信がめちゃ大事だよね。

強国はアクションを起こして、ミスしたときの許容範囲がすごく広いと感じる。1つのプレーに責任を持っているし、ミスしても周りがそのチャレンジに対して、すごく許容する。それは試合をしていて、相手からも感じた。逆にその勇気が日本は足りないのかなと思った。

──強豪国は「そこで仕掛けるのか!」ということがある。でも、取られたりもするんだよね。

そうそう、それ。

──でも、あまりピンチにならなかったりする。

それがミスしたときの許容範囲の広さ。周りがカバーしてくれるから。

──俺もそうだったけど、日本人は「ボールを失いたくない」が先にあるよね。

だから守りの選択をしちゃう。

──リスクが少しでもあったら、味方へのパスを選ぶことが多いからね。

うん、そのマインドは変えていかないといけないんじゃないかな。

──リスクをかけるところはかけて、ミスをしてもみんなで守るというマインド。

それがあるから、選手一人ひとりが自立していると思った。責任をちゃんと持ってる。

──しかも、失点に絡んでもそこまで気にしない。

そうそう。

──ペピータとかもそうだよね。「俺が取られて失点しても仕方ないだろ。その代わり、点を取り返すから」っていう感じ。

そういう責任の持ち方なんだよね。

──それと、折れない心。

まさにね。日本人だと、「ミスしたらどうしよう」「失点したらどうしよう」がよぎってしまう。ミスに敏感すぎるのかもしれない。それは、メンタルも、技術も、どちらにも理由があると思うし、周りがチャレンジを許容することで、いいプレーを引き出すこともできる。

──そういう雰囲気も大事だよね。

そうそう。

──「切り替えろ!」と言っていても、どこかで「あいつやっちゃったな」って。

わかる、わかる。そういう感覚になっちゃうんだよね。

──代表でも、失点に絡んだ選手に「いいよ、いいよ」「切り替えろ!」って言いすぎてしまうことがある。つまり「失点に絡んだあいつを慰めないと」という気持ちがあるってこと。

そうだね。日本人のいいところでもあるんだけどね。ただ、戦う上でそれは少し引っかかる部分がある。絶対にできる技術があるのに、マインドのせいで試合中に武器を出せない選手がいる。それをW杯でいきなりやるのは難しいから、毎日の積み重ねだよね。周りのサポートによって、選手一人ひとりの良さをもっと引き出してあげられると思う。

想像を超える衝撃だった2人の選手

──スペインリーグとかでもよく見ていた世界のトップレベルの選手と実際にピッチで対峙したわけだけど、「こいつはすごい」とリアルに感じた選手はいた?

ブラジルとスペインは違うな、と。ブラジルは、シンプルで、個人個人の力がすごい。1人でも打開してくる。こっちは1人で止められないから、2人かけないといけなくなる。対人の強さはすさまじかったね。フェラオは見ていてもすごいと感じたと思うし、実際すごかった。でも、俺が「やばい」と感じたのは、10番のピト。彼はね、なんだろうな……なんだこいつって感じ(笑)。

──トータルスキルがすごい?

そう。自分の型を持っているし、どんな相手にも1対1の勝負ができて、1人で決着できる。なおかつ、ピヴォを見ながらパスも選択できる。しかも、デカイ。ストライドが長いし、速いから置いていかれる。「嫌だな、捕まえづらいな」って、ずっと脅威だった。さすが、ブラジルの10番を背負っているだけあるな、と。器用だし、迫力がある。俺らがやられた胸トラップからのゴールとか、あのサイズであの柔らかさ。対戦してみて、衝撃だったね。

──スペインはどう?

8番のアドルフォだね。映像で見て知っていたけど、あまり派手なプレーはしないし、献身的に動くところは、自分とプレースタイルが似ていると思っていたし、参考にもしていた。ただ、実際に体感したアドルフォは、動きのスピード、質、決定力が自分の予想をはるかに超えていた。この次元で、このスピードで、プレー一つひとつに無駄がない。衝撃だったよ。

──アドルフォはうまかったね。

しかも攻撃だけではなく、守備の献身性。サボらないし、むしろガンガンいくから。

──あのプレースタイルで、スペインリーグ得点王になったこともある。

本当にすごいよね。

──パッシャンにプレースタイルが似ているけど、ゴールもすごい決めるわけだからね。

そうなんだよ。常に動いて、味方へのサポートが止まらない。ずっと動いている。普通だったら、あれだけ動いていたら、疲れてゴール前のパワーが欠けるんだけど、そこまでやり切るし、決め切る。シュートの選択肢もいろいろある。ちょっとこちらの予想を超えてきたね。

──ほかにはどんな選手がいた?

アルゼンチンのピヴォ、9番のボルト。小さいけど、しっかり背負える選手だった。強豪国と対峙していてもきちんと起点になるし、小回りだけじゃない。「小さいのにそんなタイプもいるんだ」と思った。機動力だけではなく、「背負う」という土俵で戦えていたから。

──決勝で退場しなければ……。

そうなんだよ(笑)。本当に「なんで?」って思ったよね。

──アルゼンチンはボルトの力がすごかったからこそ、残念だったね。プロフェッショナルファウルでの退場であれば仕方がないけど、あれはね……。

あのシーンで頭に浮かんだのは、ジネディーヌ・ジダン。W杯であそこまでやれてしまうメンタリティが逆にすごいなと思ったよ。行為はもちろんよくないけど、あれは日本人にはないなって。

──メンタリティとしては見習うべきところもあるね。

だって、W杯の決勝で、しかもビデオサポートがあるなかでやったのは、ある意味すごいよ。メンタルということにおいては、本当に驚くべきものだったな。

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