“Fリーグ世代”の最高傑作・西谷良介。世界を驚嘆させたW杯で流した、涙の成分。|ブルーノ・ジャパンの真実
PHOTO BYFIFA/Getty Images、本田好伸
Fリーグ世代代表・西谷がこだわり続ける技術
──今大会で特に出場時間が長かったのは、オリベイラ・アルトゥール、逸見勝利ラファエル、吉川智貴、清水和也、星翔太、星龍太、そしてパッシャン。龍太とパッシャン以外は、全員海外経験があるよね。龍太は名古屋歴が長いという意味で、ある意味“海外経験”がある(笑)。そう考えると、パッシャンは純国産というか「Fリーグ世代」の代表的な選手だと思う。
たしかに、そう言われるとそうかもね。
──パッシャンは日本でのプレーだけで主力になった。意識して取り組んできたことはある?
特にこれといったことはないかも。代表も長いから、海外の選手との試合をたくさん経験してきたしね。それと、名古屋でプレーするようになってからはラファやペピータとか、ブラジル代表クラスの選手と一緒にやれている、今の環境は大きいと思う。
彼らは、自分にはできないプレーを簡単にやってしまう。そういう経験があるから、スペインやブラジルの間合いが嫌だということはなかったかな。日頃から名古屋で世界を感じられていたことが大きかったと思う。それと、翔太や智貴など、海外を知る選手から話を聞いて学ぶことができたことも。日々の積み重ねが自分のレベルアップにつながってきたことをすごく感じる。チームメートからもらっている影響は計り知れないよ。
──名古屋は常に強度が高いし、レベルの高い外国人選手もいる。リーグよりも紅白戦の方がきつかったりするからね。
そうだね。W杯が終わって、あらためて強く感じる。名古屋に移籍した決断は間違っていなかったな、と。クラブ選手権に行けた経験も大きかったと思う。
──国際大会を経験できるのは大きいよね。
うん。どんなに言葉を並べられても、腑に落ちなければ取り組めなかったりするけど、逆に腑に落ちたら、どんどん自発的に取り組もうとする。そういう意味で、名古屋には言葉ではわからなかったインパクトがある。だからこそ、もっとやらなきゃいけない、全然足りていないと感じる。そうやって、レベルアップにつながっていくんじゃないかな。
──日本全体のレベルを上げることも、各チームに世界トップクラスの外国人選手が複数人いるような環境が必要かもしれないよね。そうしたら一気にレベルが上がるかもしれない。
そうしたら本当に変わっていくと思うよ。だって、俺は練習でヘコむことがあるからね。「なんでできないだ」っていう刺激や緊張感が毎日あるわけだから。
──俺も、リカルジーニョがいたときの紅白戦の緊張感はやばかった(苦笑)。
それは、やばいだろうね(笑)。緊張感、インパクト、衝撃が成長には必要かもね。
──パッシャンは基礎技術がとにかく高い。中村憲剛さんも基礎の重要性を語っていたことで、あらためてフォーカスされている。その部分は大事にしてきた?
めちゃくちゃ大事にしてきたよ。さっきの衝撃にもつながる話なんだけど、高校のときに、JFLのチームとかと試合をした際に、トラップ一つで差を見せつけられた。なんでそんなにちゃんと止められて、質のいいパスを出せるのか。次元が違うなと感じて、衝撃だった。同時に、基礎技術だけで差を見せつけられることに魅力を感じた。
──派手なプレーではなくても違いを見せられる。
そうなんだよ。だから大学時代は毎日100本は、止める、蹴るをやっていた。憲剛さんも話していたけど、それができるようになると自然と顔が上がるようになるんだよね。それで顔が上がると、いろんなところに目を向けられるようになる。
──止める、蹴るに集中する必要がなくなる。
それは身に着けたものとして、他のクオリティを上げられる。余裕ができるから、相手と駆け引きできる。自分は体が大きくない分、そこで勝負しないといけないと思ったし、基礎はめっちゃ大事にしてきたよ。
──とにかくこだわっている。
変なバウンドをして、受けにくいパスってあるでしょ?あれを出してしまったときの自分のストレスがハンパないんだよ(笑)。「めっちゃごめん」ってなる。そこは大事にしてきたし、それが自分の武器になっていることは間違いないかな。
川崎フロンターレとかもやっているよね。サッカーボールであれができたら、フットサルの戦術も取り入れやすくなると思う。フットサルをサッカーに生かすことができる。川崎のパスサッカーとか、憲剛さんが話していることはすごく腑に落ちる。なるほどなって。
ブラジル戦後に流した涙と複雑な表情のワケ
──ブラジル戦後のパッシャンのインタビュー動画がすごい反響だった。
そうだったんだ。
──心を打たれたよ。あの涙のワケを聞いてもいい?
いろんな感情、だよね。光が見えていたなかで結果を出せなかったこと。大敗したわけではなく、ブラジルを引きずり落とせたんじゃないかなという悔しさがあった。でも、この5年間を振り返ってみると、積み重ねてきた過程に悔いはなかった。長く代表に在籍して、いろんな選手とやってきたから、そのみんなの思いを絶対に背負って戦おうと思っていた。トモもその1人だね。一緒に戦ったウズベキスタンでの敗戦から、這いつくばって、もう一度、日本フットサルの歴史を歩み出すために尽力してきた選手がいて、責任を持ってやってきて、望んだ結果を出せなかった。複雑だったんだよ(笑)。だから、ああいう涙になった。
──もう一つ上に、行きたかった。
そうだね、行きたかった。2016年に歩みを止めてしまった責任は、あの場にいた選手はわかっているし、自分ももちろん、その1人。そこから先に進んでいるというメッセージを伝えるために、もう一つね。ここに立てなかった選手のことを考えると、「くそー、何してんねん!」っていう感情が、あったと思うんだよ。
──2016年の敗戦を経験したメンバーと何人かで、帰国後にご飯に行ったんだよね。
行ったね。
──そこで、次で取り返すしかないという話をして。
あの場は、暗かったもんね。
──当時の代表メンバーはみんな、「自分がW杯に出て取り返したい」という思いがあったと思う。自分がアジア選手権に出て、W杯出場を決めて、それで、って。でも監督も替わり、年齢も重ねていくなかで、俺もそうだけど、全員が残れるわけじゃない。残れたのは一部の選手。
そうだね。みんな自分の手でどうにか雪辱を果たすという思いで取り組んできたと思う。会ったときには話をして、思いを共有していたし、お互いに感じていたから。あと一歩、そこまできていたけど行けなかった。この舞台に立てなかった。ブラジルに敗れたあと、2016年に悔しい思いをした仲間のことが頭をよぎったかな。
日本代表・西谷良介は3年後のW杯に……?
──最後に、35歳でW杯を終えた今、今後のことを聞きたい。1年遅れたから、3年後だよね、次のW杯は……。
そうだね、本当に。体がきついとかは全然ないんだよ。この年齢でやれていることが幸せだからね。でも、もちろんケガのリスクはあるし、疲労を抜くためのケアにも目を向けないといけない。そのなかで強度を保ち続けて、常に向上しないと競争を勝ち残っていけないし、代表にも残れない。だからこそ、目指して……ムズイね。難しい……。
──自ら代表引退を表明することはない?
そうね。ごめん。言語化できていない。
──次のW杯、目指すことは目指す?
どうなんだろう……。もう、1年1年が勝負。そこで自分が耐え切れるかどうかかな。
──1年ずつプレーして、チャンスがあれば。
そうだね。3月には東アジア選手権があるけど、今までと変わらずいい準備をするだけ。特になにかを意識してとかはない。強度や、体のケアに目を向けていく。ケガをしたくないし、それで終わりたくはないからね。自分が防げるはずのケガをしたら一番悔いが残るだろうから。そこだけは気をつけて、まっとうしたい。
──その先になにが待っているか。
そう。自分に期待したい。ごめんね、聞きたい答えじゃなくて。
──内に秘める人も、明確に引退を表明する人もいる。言わないのもパッシャンらしさだから。
トモさんの力でうまくまとめてもらえたら(笑)。
──頑張るよ。今日はありがとう!
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