更新日時:2022.03.08
「僕はパラグアイ戦の戦犯だと思っている」。清水和也が抱くエースの自覚とW杯の後悔|ブルーノ・ジャパンの真実
PHOTO BYFIFA/Getty Images
2021年9月、FIFAフットサルワールドカップで日本のエースとして期待された男がいる。
清水和也だ。
17歳でフウガドールすみだトップチームに昇格し、Fリーグデビューを果たすと、名古屋オーシャンズ相手にハットトリックを達成するなど、早くから将来の日本フットサル界を引っ張っていく存在として大きな期待を背負ってきた。
2016年は、W杯の出場権をかけたアジア選手権の直前までメンバーに残っていたが、本大会には選ばれず、日本代表はこの大会で結果を出せなかった。
悔しさだけが残ったその日から、「4年後は自分が中心となって戦う」と胸に誓った。
清水は戦いの場をスペインへと移し、名門バルセロナからもゴールを奪ってみせた。世界トップレベルのリーグでその実力に磨きをかけ、満を持して臨んだのが今回のW杯だ。しかし、結果は、自身が望んでいたものとは程遠いものだった。
「パラグアイ戦の戦犯は僕です」
そう言い切った清水は、今でもそのプレーを悔やんでいる。
チームとしてはベスト16という、2012年大会で到達した場所に返り咲き、一定の成果を出したと言える。一方で、清水自身は、自らのパフォーマンスに納得がいっていないと言う。その意識の高さ、己への要求の厳しさが、清水という人間を作り上げているものだ。
不完全燃焼に終わったW杯を経て、なにを思い、今後どのようにつなげていこうとしているのか。
清水は思いを噛み締めるように、ゆっくりと語り出した。
※インタビューは10月28日に実施した
インタビュー・編集=渡邉知晃
初のW杯を終えて残った感情は「後悔」
──パッシャン(西谷良介)のインタビューは読んだ?
読みましたよ。会話はフランクだけど、グッとくるものがありました。
──じゃあ、そんなイメージで、深い話ができたらいいな。清水和也と言えば「真面目な好青年」と思われているし、実際にそうだけど、それだけではない部分も聞きたい。
わかりました。常に本心ですけど、今日はいつも以上に真剣に話します(笑)。
──ぜひ本音を聞かせて。例えば、森岡薫や渡邉知晃は邪魔だった、とかね。
なに言っているんですか(笑)。
──では、本題に。W杯が終わってから、直接スペインに帰ったの?
そうです。スペインでは隔離期間はなく、到着した次の日からチームの練習に参加しました。
──改めて試合を振り返る時間はなかった?
コルドバに帰る飛行機と、電車の中で振り返っていましたね。コルドバに着いてからは、こっちのチームのことに切り替えたので、余韻に浸る時間はあまりありませんでした。
──終わってみてどう感じた? 個人としてもチームとしても。
コルドバに着く前に自分で考えていたことは、自分が犯してしまったミスや、覆らない結果に対して、言い方が正しいかわからないですが、非常に後悔しています。
もっとこうしておけばよかったという気持ちであふれていて、自分の100%を表現できたのか、と。やれるべきことはやれたと思うけど、犯したミス、エラーがぐるぐると頭を巡って、消化しきれずに大会を終えました。チームとしては、目標にたどり着けなかったところもありますし、悔しさはあります。
──悔しさ以外は?
5年間やってきたことへの満足感、チーム全員への感謝も同じくらいあふれていました。最後に宿舎を出るときには、悔しさと、みんなと離れてしまう寂しさの半々でした。コルドバに着いてからは、チームメートを含め、日本代表への評価が思っていた以上に高かった。
強豪国に対して「対等に戦えていたね」「お前のプレーは良かったね」と。でも素直にその言葉を受け止められなかった。どこが良かったのかわからなかったので。自分はスーパーな選手ではなかったと感じています。トータルで見たときに、自分は良くなかったです。
──犯してしまったミスとは、パラグアイ戦の2失点目のこと?
そうです。事前のスカウティングで彼らの長所はわかっていましたが、自分たちも同点の状況だったので点を取りたい気持ちがありました。あとから映像を見て、こうしておけば良かったという改善点はあるけど、ピッチ上では「いける」と思って、サイドで1対1を仕掛けました。結果的にそれが失点につながったから、もっと冷静にプレーしても良かったのではないかと思いました。相手のカウンターが危ないことは知っていたので、まんまと相手の罠にハマってしまった形ですよね。なんでそのプレーを選択してしまったのかという、自分へのいら立ちが、W杯期間中ずっと残っていました。
▼パラグアイ戦、1-1で迎えた後半の失点シーン(2:52〜)/試合ハイライト
──和也だけのミスではないけどね。
もちろん、リスクをかけないといけないところはありますし、勝つことが目標だったので。僕が奪われた後に、誰かがファウルで止められたのではないかとか、2対1のDFをこうしていたらとかはありますけど、自分が選んだプレーですし、責任を持ってプレーを終わらせるべきだったと思っています。
──大会を通して、悔しさのほうが残った。
そうですね。スコアからもそうですし、自分はW杯でチームの中心選手となって、世界の強豪国を倒したいという目標を掲げていました。数字の面でももちろんそうです。今の自分にできるプレーをしましたが、まだまだ足りなかったと感じました。
──スペインリーグを通して、世界のトップレベルの試合には慣れているよね。W杯で自分のベストパフォーマンスが出せなかった要因は、自分の中でどう考えている? エースとしての重責がプレッシャーになったのか、気負いすぎたのか。
半々かなと。自分自身にプレッシャーをかけすぎたところもあります。どうしても、自分が機能しない限りチームを救えないと思っていたので。前で体を張ってボールを保持する時間が増えたら、周囲の3人が活躍してくれる。そういう大前提の仕事に重きを置いていたので、そこへの仕事は比較的できました。
ただし、世界の名だたるエースと同じような仕事ができたかというとそうではない。ブラジルのフェラオのような……。気負いすぎたところもあると思います。あとは、国を代表して戦う試合は、スペインリーグとはまた別物だと感じました。リーグ戦の彼らと、代表のユニフォームを着た彼らはイメージが全然違ったし、一緒ではないなと痛感しましたね。
──今回はベスト16で、次はベスト8かベスト4を目指さないといけない。やはりその壁は高いし、今回も試合のレベルがそこから一気に上がったように見えた。そこに日本が食い込まないといけない。なにが必要だと思う?
個人的に感じるのは、「タレント性」と言われていて、そこを伸ばさないといけないと思いながらも、限界値があると思います。だからこそ、「組織力」が必要になってくるはずです。
今大会のアルゼンチンを見ていて思ったのですが、世界のトップオブトップのチームでプレーしている選手はいません。スペインで言えば、バルサやインテル、エルポソには一人もいない。つまりアルゼンチンは、組織力が強いということかなと思っています。
個人で勝てなくても、組織で補うために、システムを積み重ねていく。僕自身がフェラオになると言っても限界はあるので、組織力を高めることが必要です。それに加えて、個人を極限まで高めるということが、ベスト8の壁を越えるためのカギになると思います。
──ということで今は、スペインで個人を極限まで高めようとしている。
そうですね。
▼3月2日のリーグ戦でハットトリックを達成。今季11点で得点ランキング6位に浮上した/試合ハイライト
──でも代表チームとしては、同時に組織も上げる必要がある。
個人は、各々の場所で磨き上げるしかありません。限られた代表活動の期間で、組織としての完成度はもっと上げていかないといけない。僕のチームにはアルゼンチン人の第2監督がいます。彼に聞くと、アルゼンチンは精密なシステムが組まれていたりするみたいです。
2016年のW杯優勝からのシステムの大きな変化はないということなので、積み重ねですね。組織力を上げて、なおかつ最終局面では個人の力でも勝負する。ピヴォは、ゴール前での勝負、アラは1対1の成功率を上げることや、20×40mの長短自在のパスを正確かつズレないで出すことなど、細かいところを一人ひとりが突き詰めていく。そこを意識しないとベスト8もそうですし、W杯は簡単じゃないなと。「積み重ね」が重要ですね。
ブルーノ監督から「普通の選手」と言われ続けた
──5年間一緒に活動したブルーノ監督はどうだった?
個人的に思うのは、自分たちに合っていた監督だったなと。それが一番強いですね。あまり物事を誤魔化すことが好きじゃない監督で、良いか悪いかがはっきりしていて、メリハリがありました。オン・ザ・ピッチもオフ・ザ・ピッチも、整った関係でした。チームで決められた明確なルールもあったので、個人的にはやりやすかったです。いろんなものを得られた5年間でした。
──文句や言いたいことはない(笑)?
ないですね(笑)。強いていうなら、招集の強制力がない期間の活動には参加できないこともあったので、FIFAデイズのなかで活動してくれとは思いましたけどね。でもそこはどうにもならない部分だと思いますけど。
──それ以外は?
ありません!キャプテンの3人への振る舞いもそうですし、すごく信頼感がありました。これはあまり話したことがないのですが、個人的には何度も監督に呼び出されたんです。彼の部屋に行き、パソコンの前に座らされ、僕の大量のビデオを見せられて、「ここはダメだ」「ここは良い」って、散々言われてきました。
──代表でのプレー映像?
いや、代表だけではなく、Fリーグ時代の映像も、コルドバの映像もありました。めちゃくちゃ言われましたよ、「こうしろ、ああしろ」って。自分自身いろんな悩みを抱えていたことがありましたが、どう成長したらいいのかを、その度に軌道修正してもらいました。5年間を振り返ると、なにもできなかった2016年から、少しは成長できた、一人のピヴォになれたとは思っていますし、その過程で大きな手助けをしてもらいました。
──個人的に「お前を信頼している」「チームの中心だぞ」という話も?
ありましたね。各大会や親善試合のたびに、「今のパフォーマンスのままでは“普通”だ」と。常に「普通」と言われ続けていました。「一流のスターになるやつはここからのし上がっていくんだ」という火のつけられ方をして、そこに登ってみろと。合宿の最後にはいつも、ここは良かった、ここは伸ばさないといけないという宿題をもらっていました。
──褒められたことは?
褒められることはあまりないですね。練習後に、「昨日よりは良かった」くらいです。W杯に行く前に、僕と逸見はオフシーズンからのスタートだったので、みんなとコンディションが違うこともあったのですが、そこでも常に「今のままだと普通だ」と。「W杯でおまえの名前を世界に知れ渡らせるためにもっとやらないといけないぞ」と。信頼関係があったからこそ、褒めるよりも課題を与えたほうが伸びると思ってもらったのかなと思います。
──この記事のタイトルは「普通の選手・清水和也」でいい?
それでいいです。普通の選手だって(笑)。
──2016年に和也は最終候補メンバーにいたけど、選ばれなかった。そしてチームはW杯の出場権を逃した。「俺のほうがいいだろ」って思わなかった?
正直な感想として、なにかを起こせるという自信を、あの時点では持っていました。チームが苦しいときに誰よりも前からプレスをかけたり、プラス1の存在として力になれると思っていました。一方で、選考外に納得している自分もいました。
チームの完成度を見ると、アジアで負けるとは思っていなかったですからね。ただ、星翔太さんのケガの状態もあったので、いつ呼ばれてもいいように、ウズベキスタンに行ける準備はしていました。あのときのメンバーなら大丈夫だと納得していた自分がいたので、負けたときのショックは大きくて。自分はこのままじゃダメだと思いました。
3年後は“トルクメ世代”と一緒に次のステージへ
──次の3年後はどうしたい?
僕のなかでは、3年後もそうですし、次のアジア選手権も、なんとしても代表の一員として戦って、先輩方が築いてきた歴史を継承していきたいと思っています。間違いなくここで代表メンバーが変わります。先輩たちから教えてもらったことを、次の流れに引っ張っていきたい。Fリーグでも若い選手が出てきていますから、そういう選手と一緒にどう融合して新しい日本代表を作っていくかを考えると、自分は今のままじゃダメだと思います。
ベスト8以上に行くためになにをしなければいけないのか。まずは、先ほどお話しした個人を極限まで上げること。そして、組織としては、今大会を経験したメンバーの中堅や若手は次の代表にも絡んでくると思うので、各個人の反省点を今から伸ばしていかないといけないと思います。僕自身はもっと圧倒的な力、圧倒的な存在になる必要があります。
──ベスト8に俺が連れていく、と。
そこはもう。もちろん、自分の個の力の限界値はあると思いますが、極限までメンバーの良さを引き出せるようにしないといけません。そこがピヴォの役割ですから。簡単ではないですが、そこにチャレンジしないと意味がないと思います。
──一歩ずつだね。
はい。まずはアジア選手権のタイトルを取ります。
──今までインタビューしたなかで、和也が一番反省の言葉が多かったよ。みんなスペイン、ブラジルとああいった試合ができたことに少なからず満足感や手応えを感じていた話をしていたけど、和也はまず、自分の反省の話をしていたから。
でも、ほんとにそうですから。もちろん、戦えた部分はありますけど、全部相手の土俵でやられていました。彼らは難しいことはしません。スペインはすべて2タッチ以内で回すから、こっちのプレスがかからない。パラグアイもそうでした。ブラジルには、圧倒的な個で仕留められた。手応えはありつつ、圧倒的な差を同時に感じました。本当はもっときれいな言葉で片付けたいですけど、それが出てこないくらい、自分に腹が立ちました。やってしまったことの重大さは自分が一番わかっているので。それが勝敗を分けたと思っています。
──それがエースの宿命だね。和也はどうしてそういうメンタリティを持てているの?
いい先輩方に恵まれたからだと思います。2018年に、大田区総合体育館でアルゼンチン代表と親善試合をした際のエピソードがあって。前半に僕が無人のゴールへのシュートを外して落ち込んでしまったんです。(室田)祐希くんがピサーダ(ボールを踏んで後ろに出すパス)で預けてくれたボールを僕が外してしまった。そのとき、ハーフタイムである先輩から声をかけてもらったんです。
──それ、俺のこと(笑)?
そうです(笑)。「大丈夫だ。俺も前にクロアチアとの親善試合で、パワープレーの流れから無人のゴールへのシュートを外したから……」と言ってくれて。それで救われました。「よくあることだ」って。その後、後半に点を取れたので、トモさんが僕の精神を整えてくれました。20歳くらいの僕にはすごくありがたい言葉でしたね。
──いい先輩がいたね(笑)。
本当にそうですよ。僕は人に恵まれていたので。いいピヴォの先輩から学べて、自分をある程度まで確立できました。めちゃくちゃ比較もされましたけどね……。
──今度は和也がその役割を担っていく。
そうですね。
──2016年は日本フットサルにとって大きな転換期になったけど、いずれその時代を知っている選手が和也だけになってくるからね。
はい。でも、18歳で代表に入って、いろんなことを教わった先輩たちが抜けるサイクルは、めちゃくちゃ寂しいです。代表がなくてもFリーグとかで会えたりしますけど、すでに引退した選手もいますから。あらためてすごい人たちと一緒にプレーしていたんだなって、複雑な気持ちになります。まだ慣れないですね。
──大会が終わって、同じピヴォの翔太さんからのメッセージはあった?
翔さんからは、「次は頑張れよ。俺は終わりだから」って。試合後は複雑な思いでしたね。僕自身も、翔さんも泣いていました。本当に終わったんだなと思いました。
他のメンバーを見ても、これで終わりだと思っている人もいたと思いますし、僕にとってもその光景は、初めての経験でした。誰かを責めるより、自分自身がなにもできなかったことにいら立ちを覚えていました。そういうシチュエーションは好きじゃないし、できる限り迎えたくない。自分の年齢とともに感じることが少しずつ変わってきていますけど、代表は年齢が関係ない場所。もっともっと上に行かないといけないと思っています。
それに、自分だけがそういう思いを持っていてもダメで、どれだけ周りを巻き込めるか。その意味で、世代交代は一つの分岐点になると思っています。次の世代を引っ張っていかないといけないですね。
──では、次の日本を背負っていく選手たちにメッセージはある?
僕が勝手に思っている「トルクメ世代」というものがあって。2017年9月にトルクメニスタンで行われたアジアインドア&マーシャルアーツゲームズの代表メンバーだった、祐希くんたちの世代ですね。そこの層をぎゅっと凝縮して、互いに高め合っていかないと次の代表が、世間から見てもすごく難しいと思われてしまうという危機感を僕自身持っています。
W杯が終わり、Fリーグが再開し、代表選手たちが頑張っているので、自分もやらないといけない。若手選手も「あの人より自分のほうがいけるでしょ」という気持ちでやれば、競争力が上がると思います。トルクメ世代が中心となって次を担っていくと思うので、その世代の人たちと一緒に頑張っていきたい。もちろん、次の代表に選ばれないといけないので、まずは自分が選んでもらえるように頑張りたいと思います。
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